小説

2014年12月 2日 (火)

角田光代『紙の月』(ハルキ文庫)

梨花という、銀行横領犯。カネが薄皮を剥ぐように、ヒトを素に戻していく。

この女性の徹底的な孤独が、あまりにせつない。

映画の前に小説を読んだが、俄然映画も見たくなった。宮澤りえ、期待高まるなあ。

紙の月

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2014年11月30日 (日)

真山仁『売国』(文藝春秋)

イマイチだったなあ。売れているし、なんたって真山氏の新作。期待してたんだけどなあ。

今回は宇宙開発と汚職、そしてアメリカに日本を売り渡す政治の陰謀。”日本を買いたたく!”とM&Aで痛快なドラマを創りあげた真山氏がこんなに安っぽいドラマで日本を売り渡しちゃなあ。

経済モノを読みたい。早く帰ってきてくれ。


2014年9月28日 (日)

アンディ―・ウィアー『火星の人』 (ハヤカワ文庫SF)

これはおススメSF。

火星に取り残された宇宙飛行士。彼がたった一人で、残された飛行船などのわずかな資源を頼りに、生き残りに挑む。例えば、火星でジャガイモをつくるのだ(ほんとかよ)。

状況が好転すればそのたびアクシデントに見舞われ、何度もピンチに陥る。しかし彼は明るくユーモアたっぷりで、あくまで前向きで楽天的。科学的なディテイルも緻密で600ページに及ぶ長編だが、軽妙な訳もあり、最後まで手に汗しながら「がんばれ」と声援を送り続けた。



2014年9月21日 (日)

千早茜『男ともだち』(文藝春秋)

不思議な感覚である。

恋人と同棲しつつ、医者の愛人ともつきあう主人公神名。そこに現れる大学時代の男ともだち、ハセオ。

神名は、戦場に行くとしたら、“恋人は私の心配ばかりしておろおろしそうだから連れていけない。愛人はなんだかんだ裏切りそうで嫌。でも、ハセオだったらいい、と思える。あの男だったら背中をまかせられる。そんな感じ”と語る。
友人美穂は、そんな神名を“女ともだちより男ともだちに守ってもらいたいって時点で、やっぱりずるい”となじる。

それは“ずるい”関係なのか。奪ったり奪われたりするのでない男女の関係。作者はそれを丁寧にかつ洒脱に描写していく。

わかるような、わからないような。このような感覚は、世に実在するだろのか。私を疲れた日常から遠いところに放り出してくれた一冊。とても興味深く、新しい。


2014年7月16日 (水)

桂望美『嫌な女』(光文社文庫)

”詐欺師なんて、嫌われもんだと思うだろ。違うんだ、愛されるんだよ、詐欺師ってのは。人から愛される特技のあるもんじゃなきゃ、人なんて騙せない。” 
この生来の詐欺師、夏子を、遠い親戚だということで毎度弁護する女性弁護士、徹子。物語は二人が20代のころから始まり、年を経て還暦を過ぎるまで続く。天然の愛されキャラを存分に生かして、手を変え品を変え人を誑し込んでいく夏子の手管も見事だが、騙された人たちが幸せそうなのもまた憎らしい。

全編を通じ、夏子は弁護士徹子の目を通してのみ描かれる。徹子が夏子を取り巻く人たちに話を聞いて回ることで物語は展開するが、「本当に夏子は人を騙しているのか。」それぞれのケースがひとつのミステリーである。そして、「騙されても幸せなら良いのか。」その謎解きも十分ミステリーだ。ケースを経るほど、”冷めた目で依頼人を見ている”弁護士徹子が変わっていく、その成長譚としても楽しめる。

桂望美氏の秀作、久しぶりに堪能しました。


2014年6月14日 (土)

勝目梓『あしあと』(文藝春秋)

本源的な人間の情欲を、ストレートに描写。

恨みや妬み、暴力や禁忌と絡み合う情欲。本源的な感性だからこそ、ズシンと響いたり、目を背けたくなったりもする。

本作と米澤穂信氏の『満願』を並べて論ずるものがあるが、違う性質の小説。
プロットに繊細に人間の感情の機微を織り込む『満願』に対し、こちらはあくまで、直球勝負。好みが分かれるところと思う。


2014年5月18日 (日)

貫井徳郎『私に似た人』(朝日新聞出版)

貫井徳郎の新作のテーマは「小口テロ」。

交差点で人を殺傷したり、トラックでビルに突っ込んだりする無差別殺人。実はネットで互いにつながっている。警察はネットでの教唆犯を確保するが、教唆の連鎖は終わりが見えず…。

貧困層にいる「教唆される側」に対して「教唆する側」の動機は何か。複数の事件を短編連作でつなげていくことで、人間の「憎悪」の本源を描いていく。

貫井作品にしては深みに欠けるものの、SNSを通じて犯罪が連鎖していく様は興味深く、現実の自分の身近にもその芽はあるのでは、という何とも言えない恐怖にかられる。貫井作品最高、は言い過ぎ。


2014年3月 2日 (日)

佐川光晴『鉄童の旅』(実業之日本社)

鉄分の濃い皆さん、またそそられる本が出ましたよ。『おれのおばさん』の佐川光晴氏。

"国鉄時代、列車は大らかな乗り物でした。鉄道の運行にかかわる職員たちも、気のいい連中が多かった。売店や駅弁屋のおばさんたちも含めて、みんなが長屋暮らしをしながら働いているような雰囲気がありました。いい加減なところもありましたが、手綱をうまく引き締めてやりさえすれば、みんなよく働いたものです。"  国鉄時代を懐かしむ元東室蘭駅長の回想です。

そんな温かい「鉄道」というゆりかごに揺られて、少年が成長していくお話。北の大地を進むゴトゴトという汽車の音、連絡船の汽笛…。鉄道って、ホントに「物語」ですね。お楽しみくださいませ。

2013年12月16日 (月)

重松清『赤ヘル1975』(講談社)

1975は、もちろん広島初優勝の年。湧き立つ広島市民の狂乱ぶりは抱腹絶倒である。反面その年は、原爆投下30年の節目の年でもあった。

東京から巨人の帽子をかぶって転入した「マナブ」の目を通して、広島の人々の心に深く影を落とす「原爆」の姿を描いていく。「原爆」や「鎮魂」、そして「反戦」「平和」が生活に深く入り込む社会を「ヨソモノ」のマナブは理解できずに悩み、もがく。

「わからんでもええんよ。」今わからなくても、今感じた気持ちをそのまま心に刻んでいればいいと諭す友達の母。「原爆」より「原発」になってしまった我々も、「原爆」に再度触れて、何かを感じ取るよい機会となるかもしれない。

2013年11月28日 (木)

植松三十里『黒鉄の志士たち』(文芸春秋)

中2の息子がいち早く読み終わった。興奮して言う。

「魂。魂を感じたよ。日本人の魂だよ。」

知ったような口を聞いて、と思って読んでみたら、本当に「魂」だった。
幕末、欧米列強の脅威にいち早く気付いた佐賀藩、鍋島直正が鉄製大砲製作のために反射炉建造を志す。頼りは一冊の蘭書。刀鍛冶から鋳物師まで藩内の知を動員して試行錯誤を繰り返すが、成果が上がらない。
しかし直正は、志を示し、チームを鼓舞し、鉄の意思で成功に導く。そのリーダーシップと支えたメンバーの「魂」は感動、感動である。

「反射炉」は我が韮山が本家と思っていたが、佐賀が先駆だった。江川坦庵公も劇中たびたび登場し、韮山で佐賀藩と盛んに交流する。世界遺産の暫定リストに、「明治日本の産業革命遺産-九州・山口及び関連地域」があり、飛び地で韮山が入っている。「なんだそりゃ」と思っていたが、この話を読むと納得。韮山は九州とつながっていたのだ。

再度言う。この本には日本の魂がこもっている。不屈の闘志をもってモノづくりに命を懸ける。その魂さえあれば、日本は、まだ大丈夫だ。