ミステリー

2014年11月25日 (火)

奥田英朗『ナオミとカナコ』(幻冬舎)

ひとは誰もが、心の中に嘘や罪を宿している。だからこそ、この"素人の殺人"に手に汗握る。

帯でも書かれているように、親友の女二人が、DVを働く夫を殺す。ただそれだけだが、猛烈にハラハラする。

キャリアを積むナオミと家庭に入りDVに耐えるカナコ。共犯の二人が、それぞれの視点で前後半を語るが、我々読者はあたかも三人目の共犯者のように、一緒に殺し、逃げる。

”バレる”のがこんなに怖く感じるのは、奥田氏の優しい人物造形によるのか、自分の背負っている罪によるのか。

ドシロウトの単純犯罪を一気に読ませる快作、秋の夜長にぜひ。


2014年11月 4日 (火)

テリー・ヘイズ『ピルグリム』 (ハヤカワ文庫 NV)

全3巻の大作だが、全然飽きさせない。

元諜報員が、バイオテロリストを追い詰めていく。全く姿の見えないテロリスト。全米に撒かれんとしている天然痘。アフガン、トルコ、ヨーロッパ、アメリカと転々する舞台。緊迫したシーンが続く。

今年の翻訳ものNo.1最右翼か。



2014年10月 6日 (月)

ピエール・ルメートル『その女アレックス』 (文春文庫)

これは、海外ミステリ久々の当たり。


女性が誘拐され、監禁。なぜ誘拐されたのか、何を要求するのか…。しかし、そのエピソードはほんの序章に過ぎず、二部・三部と新たな展開が。

ネタバレになるのでストーリーは書けませんが、ねじけたキャラが次々出てきて物語を盛り上げ、読み進めるにつけ、ああ、そうだったのか、と。

凄惨なシーンも多いので好みは分かれるかもしれませんが、秋の夜長向け、一気読みの一冊。


2014年8月13日 (水)

未須本有生『推定脅威』(文芸春秋)

なかなか面白い書き手が出た。


あるメーカーの納入した自衛隊機が、何者かの領空侵犯に対応する中で、次々と不具合を起こす。侵犯機の狙いは何なのか。事故原因は究明されるか。

作者の航空機、戦闘機の精密な描写はそれだけで素人には面白い。飛行機の設計思想、メカニズム、パイロットの思考、メーカーとユーザーの微妙な関係。これまで触れることのなかった領域なだけに、それだけでわくわくさせられる。

確かに舞台が秀逸なだけに、登場人物たちの大根役者ぶりがかなり残念だが、それを補ってあまりある魅力だろう。

人物描写の稚拙さを、脚色と演出で補って、早く映像化されるとよいかもしれない。次回作を大いに期待したい新人。


2014年6月 9日 (月)

米沢穂信『満願』(新潮社)

それぞれの人に潜む悪意。そのさらに深いところにある嫉妬、情愛、虚栄心。さりげない普通の生活を素材にして、情念が殺意に転化していく様が、静謐に書き込まれていく。

ミステリーと言うよりホラーに近い恐ろしさ。

言わずと知れた今年の山本周五郎賞で、一時店頭から姿を消した本。米澤穂信氏は、昔『ボトルネック』を読んで以来、なんとなく肌合いがあわず敬遠してきた作家だが、今回トライ。

短編集だが一つひとつ構成が巧みで読みごたえがあり、売れるのがわかる。ミステリーのコアなファンには物足りないかもしれないが、人情の機微の描写は秀逸ではないか。





2014年5月25日 (日)

東野圭吾『虚ろな十字架』(光文社)

東野圭吾氏の最新作は、「人を殺した者は、どう償うべきか。」 

殺人を犯し、刑期中に仮釈放された男に、娘を殺された。死刑がないから、自分の娘は命を落とした。母親は、遺族ネットワークの活動を通じ、「人を殺めたものは、死刑とすべき」との思いを強めていく。「犯罪者の自戒など価値のないものだ」、と。そして、その母親もまた、人の手により命を落とす―。

死刑廃止論がホットな中、東野氏は、登場人物の口から「死刑推進論」を展開する。しかし、そんな単純な提示に終わるわけがない。

物語は、再犯による娘の死に続くその母の死という複数の事件を、被害者の家族、加害者、加害者の家族の視点から、重層的に描き出していく。なぜ殺されたのか、なぜ殺したのか。東野氏一流の緻密な構成、複雑な伏線。最後には全くことなるドラマが一つに収斂していき、謎が解けた時には我々はミステリーとしての悦びを十分堪能することになる。

一方で、「人を殺した者は、どう償うべきか。」母親の死刑推進論に、東野氏は、見事な人物造形と物語構成で異論を提示する。自分がその場に置かれたら、どのように考えるのだろうか。緻密だが非常に平易な設定なので、自分が容易にその場に引きずり込まれてしまうのだ。「罪を贖う」という極めて重い問題に。

東野作品に外れはないのだ。本作品も一気読みだった。ソツのなさ、安定感には毎回脱帽である。加えて本書は、少々重い余韻が残るところが印象深い。
【書評】


2014年3月 9日 (日)

マイクル・シアーズ『ブラック・フライデー』(ハヤカワ)

不正行為を働いて服役した元金融トレーダーが、SECも目を付ける不審な取引を解明せよとの依頼を受け調査を開始するが、次々と関係者が死に追い込まれ…、という展開。

”金融サスペンス”との触れ込みだが、主人公と息子のキャラが最高。高機能自閉症の息子"キッド"は、その障がい故にコミュニケーションもままならないが、物語の要所で絶妙の勘を働かせたり、父を狙う追手とバトルを繰り広げたり。不器用な父親と徐々に心を通わせていくもうひとつのストーリーに、心を打たれる。

この親子で続編も刊行されているようだ。サスペンスとしてのプロットはやや甘だが、この名コンビの未来に期待大。