書籍・雑誌

2013年10月18日 (金)

島田雅彦『ニッチを探して』

島田雅彦『ニッチを探して』。「ニッチ」とは「隙間」ではなく、生物それぞれの生息に適した場所、環境のこと。義憤から銀行を辞めた主人公が、家族を捨て、自分のニッチを探して放浪の旅に出る。ホームレスになろうとしてなりきれず、ついには絶命の危機に。
スペクタクルな物語の主役の脱力っぷりが、よい。無個性で、淡々として、何物になろうともせず、ただ流れに身を任せて放浪する。それだけに、出会う人々の個性が際立って、楽しい。大食いプロホームレスやら、幽霊やら、痴呆の謎の熟女やら。赤羽とか、中野とか、吉祥寺とか、彷徨う街の描写もリアリティに溢れて、自分になじみのある街のこともあって、これまた楽しい。
しかし、「なんだかなー」な小説なのだ。読み始めて「なんだかなー」なのだが、その「なんだかなー」がだんだん心地よくなって、ページをめくる手が止まらない。きっと、キリキリに追い込まれて、自分が何者なのか自信がなくなったりして、でもどこにも行くところがなくて、「なんだかなー」とモヤモヤした時にモヤモヤっとしたまま読むと「なんだかなー」のまま適当なところに心が着地しそうな、そんな小説。「なんだかなー」。

2013年10月13日 (日)

日本再建イニシアティブ『民主党政権 失敗の検証 - 日本政治は何を活かすか 』

『カウントダウン・メルトダウン』の船橋洋一氏が中心にまとめた民主党政権の検証。期待通り。「民主党議員は歴代総理をはじめみんなバカで、コドモで、ワガママだった。失敗して当たり前だ。」と切って捨てる論が多い中で、マニフェスト、政治主導、経済と財政、外交・安保、子育て支援、政党、選挙の各分野にわたって、どこが失敗への転換点だったのか、丁寧に分析。『カウントダウン…』同様、論評には何か暖か味のようなものを感じる。失敗だったのだが、これを未来に何らかの形でつないでいってほしいというメッセージなのだろう。おススメ。

東野圭吾『祈りの幕が下りる時』

東野圭吾『祈りの幕が下りる時』。緻密に伏線は張り巡らされていて、登場人物の乗り越えてきた過去も重く心に響く。人物のつながりの謎が、そうだったのか、となってからの更にもう一展開が、この作家の真骨頂なのだろう。え、デザートもこんなに豪華なの、みたいな。
さらに本作は、東日本大震災と原発のエピソードまで盛り込む。その盛り込み方の嫌味のなさがまた絶妙なのである。きっと誰が読んでも、ああおいしかった、となるが、「私はここがよかった」というのが人それぞれ違う。きっと映像化もされるに違いない。これをやってのけるのだから、彼は天才というより時代に憑かれた狂人か。
東野作品はあえておススメしません、外れなんてないのだから。

2013年9月21日 (土)

牧原出『権力移行』

牧原出『権力移行』。これは好著。自民党政権誕生から二度の政権交代、民主党政権瓦解まで、その政策決定・実行過程を党―内閣(官房)―官僚機構の力学を軸に平易に解説。省庁再編を経て、今後政権交代をスムーズに実現させるための官僚機構と政治の関係の在り方に論は及ぶ。小泉型「官邸主導」が生まれたプロセスの解析や、官僚機構を内務行政型、大蔵・財務主導型、経済産業政策型の各ネットワークに分類し、各々が盛衰しつつ政策決定過程に関与してきたとする分析は面白かった。筆者の言うよう、無益なバッシングとアマチュア的評論を離れ、国益にかなう公務員制度の設計がされてほしい。しかしNHKブックス、売り方が下手すぎるだろ。書名も煽りも芸なさすぎ。

池井戸潤『シャイロックの子供たち』

半沢直樹を見ていたら、ヨメが「上戸彩ちゃんが家にいたらいいだろうねえ」というから「そうだよねえ」と答えたらムッとした。だったら聞くなよ。確かに心の底からそう思ってましたよ、何か?
それはともかく池井戸潤『シャイロックの子供たち』。銀行のある支店をめぐる連作短編集で、登場人物それぞれの視点から銀行内のさまざまな事件を描く。途中から、百万円紛失をめぐって物語はミステリー色を帯びていく。しかし、この作品のもうひとつの側面は「家族」だ。出世欲と保身の渦巻く(と描かれている)銀行。しかし、それぞれの行員は、みな家族を「背負って」いる。その家族の行員への向き合い方もさまざまなら、背負う行員の「背負い方」もさまざまだ。しかしながら、みんな「背負って」いる。銀行員だけでなく、サラリーマンなら、家族を背負うものなら、泣けるなあ。

2013年9月18日 (水)

桜木紫乃『ホテルローヤル』

言わずと知れた直木賞。ラブホテル

をめぐる七つの短編集。世の中には強い人間と弱い人間の2種類し

かいないんじゃないかと時々思う。その弱い人間が、なぜか心の奥

底から強くて熱いものを掘り出してしまう。その「装置」としてラ

ブホテルが描かれているように思えた。ラブホテルってそんな場所

だったか。うーむ…。

2013年9月16日 (月)

朱野帰子『駅物語』

朱野帰子『駅物語』を読了。思わず手に取ってみたくなる装丁。駅を舞台にした成長物語です。「この駅を利用するお客様に幸せな奇跡を起こすことができる、そんな駅員をめざしたい」とあいさつする入社試験一位の女性大卒新入社員。しかしそこには過去と捩れた思いが。鉄道を「好きになるためにがんばった」という先輩社員は彼女に「あなたは本当の自分を見せない。こっちも心を開けないし、第一危ないよ」と言い放つ。お客様とのトラブル、人身事故の恐怖、新人の鬱…。駅勤務経験者なら、甘くて苦い思い出が思い起こされます。
エピソードには事実と違うものもありますが(特に暴力行為にはずっと厳しく対処します)、駅の仕事の雰囲気は出ているかな。「我々が乗客に提供するものはひとつ。いつもと変わらない一日」、という古参助役の一言は古いようで心に響きました。まあ、日常過ぎて半沢直樹くらい脚色してもいいじゃないかとも思いましたが(笑)。