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2014年7月 6日 (日)

大西康之『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(日経BP)

三洋電機消滅。ユニークで強みのある技術と商品をもった巨大企業は、金融3社(ゴールドマン、大和、住友)の手により、切り刻まれ売り払われる。著者は三洋を、マネジメントはダメだったが、技術と気概に溢れた会社と見ているのだろう。井植家の失敗とともに、“日本の電機産業の最強時代を課長、部長として支えた人たち”の売られた先での悲哀と執念を生き生きと描き出す。

日の出の勢いのハイアールに売却された白物家電。三洋マンたちは、ハイアールに高付加価値ブランド“AQUA”を立ち上げ、キョンキョンのCMで勝負する。中国人トップが彼らの熱意に負け、あり得ない広宣費にGOを出す。店頭で、ハイアール製品は「大丈夫、中身は三洋ですから」と説明されて売れていき、彼らは胸を熱くする。

三洋を完全子会社化したパナソニックはSANYOブランドを容赦なく一掃し、社歌・社訓を叩きこんだ。一方で、携帯電話事業を買った京セラは、工場の看板をそっと付け替え、「まずは京セラに慣れてください」という配慮を感じさせたという。しかし、指導員を送り込んで徹底的に京セラ流マネジメントを叩きこみ、三洋社員は「こうやって黒字にするのか」と驚く。

ベビー服チェーンの西松屋に移った技術者は、1,999円のPBベビーカーの開発を任される。独自機能を「付加」する電機型開発から、お客様に必要な機能だけに「削ぎ落とす」開発への思考転換。彼は語る。“西松屋では自分がつくった商品がすぐ店頭に並ぶ。だから失敗するとすぐわかる。なんぼ偉そう理屈をこねても、結果がすぐ出ますからね。とにかくお客と近いんですよ。”

開発者が顧客と遠くなり、企業として滅んでいく。日本企業が堕ちていく陥穽がここにある。電機メーカー技術者を積極採用するアイリスオーヤマ社長の“電機大手から来た人たちの話を聞くと、赤字を出しても、他社が同じ事業で赤字なら怒られないそうです。『市場環境が厳しかった』で済むから。ところがシェアを落とすと怒られる。『どうしてあそこに負けたんだ』と”という言葉には、ぞっとさせられる。

西松屋は、電機技術者は62人も採用しているが、平均年齢は57歳だそうだ。リストラされれば、常識では職がない人々。彼らが「もう一花」とヒット商品を生み出していく様には、胸が熱くなる。

日本の競争力強化のためには、今後も企業再編や事業売却が繰り返されていくのであろう。しかし、企業は人であり、M&Aの裏には無数の人生が張り付いている。西松屋の人事担当専務は言う。“社長、シャープはまだ早いです。数年前まで勝ち組だったシャープの社員はまだ茫然としているでしょう。新天地で『やってやろう』と思えるようになるには、もう少し時間がいります”
その光と影を、三洋の例を基に生々しく描いた本書は、間違いなく上半期必読の一冊だ。


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