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2014年5月25日 (日)

東野圭吾『虚ろな十字架』(光文社)

東野圭吾氏の最新作は、「人を殺した者は、どう償うべきか。」 

殺人を犯し、刑期中に仮釈放された男に、娘を殺された。死刑がないから、自分の娘は命を落とした。母親は、遺族ネットワークの活動を通じ、「人を殺めたものは、死刑とすべき」との思いを強めていく。「犯罪者の自戒など価値のないものだ」、と。そして、その母親もまた、人の手により命を落とす―。

死刑廃止論がホットな中、東野氏は、登場人物の口から「死刑推進論」を展開する。しかし、そんな単純な提示に終わるわけがない。

物語は、再犯による娘の死に続くその母の死という複数の事件を、被害者の家族、加害者、加害者の家族の視点から、重層的に描き出していく。なぜ殺されたのか、なぜ殺したのか。東野氏一流の緻密な構成、複雑な伏線。最後には全くことなるドラマが一つに収斂していき、謎が解けた時には我々はミステリーとしての悦びを十分堪能することになる。

一方で、「人を殺した者は、どう償うべきか。」母親の死刑推進論に、東野氏は、見事な人物造形と物語構成で異論を提示する。自分がその場に置かれたら、どのように考えるのだろうか。緻密だが非常に平易な設定なので、自分が容易にその場に引きずり込まれてしまうのだ。「罪を贖う」という極めて重い問題に。

東野作品に外れはないのだ。本作品も一気読みだった。ソツのなさ、安定感には毎回脱帽である。加えて本書は、少々重い余韻が残るところが印象深い。
【書評】


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