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2014年5月

2014年5月25日 (日)

東野圭吾『虚ろな十字架』(光文社)

東野圭吾氏の最新作は、「人を殺した者は、どう償うべきか。」 

殺人を犯し、刑期中に仮釈放された男に、娘を殺された。死刑がないから、自分の娘は命を落とした。母親は、遺族ネットワークの活動を通じ、「人を殺めたものは、死刑とすべき」との思いを強めていく。「犯罪者の自戒など価値のないものだ」、と。そして、その母親もまた、人の手により命を落とす―。

死刑廃止論がホットな中、東野氏は、登場人物の口から「死刑推進論」を展開する。しかし、そんな単純な提示に終わるわけがない。

物語は、再犯による娘の死に続くその母の死という複数の事件を、被害者の家族、加害者、加害者の家族の視点から、重層的に描き出していく。なぜ殺されたのか、なぜ殺したのか。東野氏一流の緻密な構成、複雑な伏線。最後には全くことなるドラマが一つに収斂していき、謎が解けた時には我々はミステリーとしての悦びを十分堪能することになる。

一方で、「人を殺した者は、どう償うべきか。」母親の死刑推進論に、東野氏は、見事な人物造形と物語構成で異論を提示する。自分がその場に置かれたら、どのように考えるのだろうか。緻密だが非常に平易な設定なので、自分が容易にその場に引きずり込まれてしまうのだ。「罪を贖う」という極めて重い問題に。

東野作品に外れはないのだ。本作品も一気読みだった。ソツのなさ、安定感には毎回脱帽である。加えて本書は、少々重い余韻が残るところが印象深い。
【書評】


2014年5月18日 (日)

貫井徳郎『私に似た人』(朝日新聞出版)

貫井徳郎の新作のテーマは「小口テロ」。

交差点で人を殺傷したり、トラックでビルに突っ込んだりする無差別殺人。実はネットで互いにつながっている。警察はネットでの教唆犯を確保するが、教唆の連鎖は終わりが見えず…。

貧困層にいる「教唆される側」に対して「教唆する側」の動機は何か。複数の事件を短編連作でつなげていくことで、人間の「憎悪」の本源を描いていく。

貫井作品にしては深みに欠けるものの、SNSを通じて犯罪が連鎖していく様は興味深く、現実の自分の身近にもその芽はあるのでは、という何とも言えない恐怖にかられる。貫井作品最高、は言い過ぎ。


2014年5月 3日 (土)

カレン・フェラン『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』 

経営戦略の策定やら業績管理やらリーダーシップ育成やら、コンサルの言っていることがいかに馬鹿馬鹿しく、カネを払う価値のないものかを自虐的に明かした本。著者は一貫して、企業は人なのだ、そこを忘れてどうする、と説く。
出てくる事例は、全くもって「会社あるある大事典」である。何となく気付いてはいるが言葉にできなかったことが出てくるたび、「そう、そうなんだよ!」と叫んでしまう。
“目標を決めて設定し、それについて報酬や罰則を設けると、必ずと言ってよいほどその目標は達成されることだ。しかし、残念ながらそのせいで、測定できない大事な目標が犠牲になってしまうことが多い。”
“(業績管理)システムの元になっている前提を見直してみよう。①これらのシステムは公正で客観的である。②上司の評価を受け点数がつけられることで、部下の業績は向上する。③従業員はお金でやる気を出す。④従業員は制度を悪用しない。このようなシステムが少しでも公正で客観的であるはずがない”
“大きなチャンスをつかむには、企業の自己発見にできるだけ多くの従業員を巻き込む必要がある。会社は従業員の集合体なのに、その人たちの感情や精神を置き去りにして、頭だけでどうやって自分が何者であるかを知ることができるだろうか?”
全くもってその通り。
しかし、だ。自分自身に、「で、どうするの?」と問いかけると夜も眠れない。罪深
い本である。良識ある皆さん、心して読まれたい。

2014年5月 1日 (木)

内海健『双極II型障害という病 -改訂版うつ病新時代』(勉誠出版)

双極性障害という病気がある。いわゆる躁うつ病。その中でも、Ⅱ型という「躁が軽い」類型にこの十年ほど関心が高まっている。

躁が軽いので、いわゆる「ハイ」だとか「キレている」と本人は感じ、病識が薄い。仕事のパフォーマンスもこの状態の方が上がったりして、患者はその状態を治療で失いたくないとさえ思うそうだ。
しかも精神科にかかるときは「うつ」の状況でかかるので、躁転したときは「うつが軽快した」と医師に話し、精神科医も判定が非常に困難だ。ゆえに、うつ病としての治療が継続され、問題の解決が遠のきがちになる。

内海先生の筆致は丁寧で、素人にもわかりやすい。このような障害の存在をきちんと知っておくことは、とても大切だ。

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