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2014年4月

2014年4月29日 (火)

【書評】中山順司『お父さんがキモい理由を説明するね』(リンダパブリッシャーズ)

題名でのけぞるが、これはなかなかの秀作。ビミョーな年齢の子を持つ親なら男女を問わず、一読の価値あり。

中学生の娘と中年オヤジ。「キモい」の一言で、百万光年離れている価値観と感覚を、父が娘と正面から向き合って「会話(ここではマジトーク)」することで埋めていく、迫真のドキュメンタリーである。でも端緒は「なぜお父さんがキモいか」娘が延々語る、かなり痛い一章ではある。

夢と目標、長所と短所、友情、いじめ。留学の章では、父は娘も好きで自分も得意な英語で、尊敬を勝ち取りつつ国際化の意味を語る。途中母親も乱入して「正しい彼氏のつくり方」をマジトーク。ただヤリたいだけの男からマトモなやつをどう選ぶか。これを昔はただやりたいだけの男だった旦那(今は娘を守る父)の前で平場でやるわけだから強烈である。

白眉はやはり、「生きる意味」について語る2回にわたる章であろう。父は、娘と語る前に自分と向き合わざるを得ない。考え抜いた末に父が娘に提示した「生きる意味」、ネタバレになるので書かないが、泣かせるし、本当にその通りだと思う。

果たしてこの本は、「世の中にはスゴいお父さんがいるなあ」と感心して終わる本なのか。父は、マジトークに持っていくためにさまざまな工夫をこらす。スティーブ・ジョブスの有名なスタンフォード大でのスピーチや、TEDトークをwebで一緒に見たり、親子で”Positive intelligence”という弱点をあぶりだす心理テストを一緒に受けて、お互いの長所短所を語る契機にする。人間力は問われるものの、我々だって四十年生きてきてそれなりの知恵も強みもある。手が届くのではないか、子どもとマジトークはできるのではないか、そんなキッカケとヒントに富んでいるのである。

ただ手が届かないかもしれないのは、「自分をもう一度見つめなおし」「自分をさらけ出す」ところであう。結局ここなのである、マジトークを価値ある、実りあるものにするために必要なのは。そんな面倒くさくてかっこ悪いことは、やらないのである。だからダメなのだ、わかっちゃいるんだが。
もしかしたらそれは、子育てだけのことではないのかもしれない。


2014年4月23日 (水)

近藤 紘一『サイゴンから来た妻と娘』 (小学館文庫)

本書は1978年の刊。サイゴン陥落の3年後、私がまだ小学生の頃だ。しかし、ベトナムという国の悲劇の歴史と、そこに住む人々の気質が生き生きと描写され、興味深かった。

特派員として赴いたベトナムから妻と連れ子を伴って帰国。妻は片言の日本語しか覚えようとせず、孵化した卵を食べることを所望し、ライギョをコーラ瓶で殴りつけてオーブンで焼く。趣味嗜好や習慣の違いをコミカルに描く一方で、ベトナム難民の取材で「寂しくないか」と問うた作者に、同行した妻は「なぜそんなバカなことを聞いたのか」と激しくなじる。ここに寂しくない人などいない、ベトナム人ならそんなことは絶対に聞かない、と。

植民地支配、南北の分断、激しい戦争。「ベトナムには決死隊はいるが特攻隊はいない。そんなことをしたら民族が滅ぶ。」長きにわたった苦難を狡猾に、たくましく生きてきた中で形成されたであろうベトナム人気質を、作者は戦争取材の経験も踏まえ、美しい日本語で綴っていく。

タイとベトナム、同じ東南アジアだろ、みたいな己の不明を深く恥じるばかりだ。

2014年4月17日 (木)

クリスティン・バーネット『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい 』(KADOKAWA)

これは今年の絶対の一冊。電車を2回も降り損ねそうになりました。とにかく読んでみてほしい。
自閉症と診断された少年が、類稀な数学的才能を開花させていく物語で、その少年を育てた母親が筆者。さなぎから蝶が羽化する瞬間のような、そのきらめきの描写に陶然とさせられる。しかしこれはまた強く賢明な母の物語でもある。

重度の発達障害の息子を抱え、セラピーを転々としながら疑念を抱き、「自分のやり方で」息子を「普通に」育てることを決断する。そしてさらに、他の自閉症児のための施設をも自ら開設する。重くのしかかる貧困。そして生まれてくる第二子にも重度の障害。でもあくまで明るく、ユーモアにあふれ、信念に満ちてその闇を生き抜いていく。だからこそ、差し込んできた光の何とも美しいこと。

「育てる」ということはどういうことか。天才でなくとも、自閉症でなくとも、多くの示唆にあふれた本である。

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