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2013年10月20日 (日)

松原耕二『ハードトーク』(新潮社)

松原耕二氏の『ハードトーク 』(新潮社)を読んだ。在京キー局で「インタビュアー」を業とする主人公岡村が、「インタビュー」という魔物にとり憑かれ、人生を喰いつぶされようとする物語。インタビューの緊張感の描写たるや、今までに描かれてこなかった領域であろう。

”インタビューはセックス、岡村さんはそう思いませんか?”と岡村は新人記者月子に問われる。”きのうまで赤の他人だった相手が、言葉を交わすうちにだんだんと心を開いて、最後は弱みも恥ずかしいところも、それこそ、すべてをさらけ出してしまう。そのプロセスがたまらなく刺激的”と恋愛とインタビューを重ねて語る月子。しかし、インタビューは公とされることを前提に行われるもの。主人公岡村は、インタビューで人の内側をさらけ出させるプロセスに恍惚としながら、その公になった後の結果の重さに苦しんでいくことになる。そして一つの命さえも、インタビューにより手にかけていってしまう。

作者松原氏はTBSの記者を経て、「NEWS23」のキャスターだった人。さすが報道の現場に長く身をおいた作者だけあって、じっとりと手に汗を握るような臨場感はその経験に裏打ちされたものであろう。しかし小説としての構成の巧みさ、会話の軽妙さは二作目と思わせない完成度でもあって、本当に今後が楽しみでもある。
作中で、総理大臣が現在の日本の報道のあり様を「子どものサッカー」と評するシーンは痛快。来たボールをやみくもに蹴る。蹴るだけでなく、全員がボールにわーっと集まる。その後のことなど何も考えない…。起こった事件を全員で叩き、大局観のない姿勢を皮肉ったシーンは、作者の自戒なのだろうか。

我々は、報道の結果はさまざま見聞きし、感じ取ることはできるが、その報道に至るプロセスに触れることはあまりない。最近はネットやSNSで大新聞、キー局報道以外の情報に触れることが多くなったとはいえ、だ。作者には、その意味でも報道の現場をバックボーンとした生々しい作品を今後も世に問うてほしい。米TVドラマ「ニュースルーム」のような上質な報道ドラマが日本でもぜひ見てみたいものだ。

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